【投人の観戦記】兵庫リレーカーニバル2025

今年もやってきましたリレーカーニバル。地方民の自分にとって、年一回必ず開催される全国規模の大会は非常にありがたい存在です。

当日は曇り空であったものの、雨が降ることはなく快適に観戦できた…と言いたいところですが、雲間から差し込む強烈な日差しにじりじりと肌を焼かれ、終盤は疲労と眠気で観戦どころではありませんでした。

何回も参加しているのになぜ暑さ・日焼け対策を怠ったのか自分でもよくわかりません。まー端的に言えば学習能力のないアホですねw

大会のハイライトは…

今回は男子砲丸投・やり投、男女の円盤投の四種目が実施されましたが、やはり大会MVPは砲丸投の奥村仁志選手でしょう。この日も圧巻のパフォーマンスで2位以下を寄せ付けない圧勝でした。

私の関心は何といっても、19m、さらには日本新が出るかという点に尽きました。まだ四月というシーズン序盤、さすがに求めすぎかと思いつつも奥村君ならやってくれるのではないかという淡い期待を胸に第四コーナー周辺の座席で観戦していました。

試技順二番目だった奥村選手は、一投目から18m26という好調な滑り出し。しかし地元兵庫の森下大地選手も18m07をマークして食い下がります。KAGOTANIは応援団のサポートが手厚いということもあって、歓声が大きかったですね。

それはそうと、森下選手ってあんなにファーストで進むようなフォームでしたっけ…。一投目は良かったものの、以降の投擲はセカンドで窮屈そうに見えました。実際、足留器に乗ってしまうファウルもありましたし。

滑り出しが良かったら良かったでブラッシュアップするのが難しくなる。投擲って難しい競技だなとつくづく実感しました。

一方の奥村選手は二投目ファウルの後の三投目。雄叫びと共に放たれた砲丸は18mラインより後方に引かれているブルーのライン(日本記録?)を超えたところに落下。

「日本新でたか!?」と固唾を飲んで記録掲示を見守る観衆。

記録は19m08。昨年自身がマークした19m09の日本記録にあと1センチと迫る大投擲でした。また、山田壮太郎さんが59回大会(2011)でマークした18m32を大きく更新する大会新記録でもありました。

期待していたとはいえ、まさか本当に19mスローを見られるとは思っていなかったので嬉しかったです。

実際に生観戦していても強く感じるのですが、近年は奥村選手の実力が抜きんでてますね。これだけ18mオーバーを連発できる選手は滅多にいませんし、しかも回転投法でこれですからね。

グライドの畑瀬聡さんは18mたくさん投げていたイメージがありますが、日本の回転選手でここまでの安定感がある選手は歴代でもいないでしょう。

そら19m出るわという印象です。体のデカさも海外勢並みだし。

この19m08は良い投擲だという感触があったと本人は試合後のインタビューで語っていますが、日本記録の時ほど指にかかった感じはなかったのだとか。(私の記憶では)落ちた位置もやや右寄りでしたし、よりしっかり突き出せるともっといい記録が出ることは間違いないでしょう。

今シーズンは日本新のコールを複数回聞けるかもしれません。上手くいけば東京世陸への出場も夢ではありませんし、彼もモチベーションを高く保っていることだと思います。

しっかし19mスローは一際アーチも大きかったですが、これが世界トップクラスだとどんな感じになるのか想像もつきません。

ユニバーの砲丸ピットは恐らく22mあるかないかですから、メダリストクラスなら芝生やトラックの方まで砲丸がぶっ飛んでいくことになります。その化け物たちが今年日本にやってくるというのですから今からワクワクが止まりませんね。

ところで、少し気になるのがアツオビン・ジェイソン選手。

大学進学してすぐに18m投げたので奥村選手よりも先に日本記録を投げるかなと思っていた時期もありますが、ここ数年伸び悩みの印象が拭えないですね。試合を拝見するたびに浮かない顔で競技終了することが多いような…。

スッと右足を引く素早いグライドは個人的には好きなのですが、世界の潮流としてはやはり日本選手も回転投法に活路を見出した方が良いのではないかという気がしてしまいます。

一概に回転>グライドと断言するつもりはありません。しかしグライドは安定性だけでなく習得のし易さも特徴であり、私個人としては初・中級者や混成競技者向けの投法であると最近は考えています。回転が合わなかった選手というのは厳しい言い方をすれば、習得と呼べるレベルに達しなかったと見なすこともできます。

回転の本場アメリカでさえ、グライドを経ての回転という選手も少なくないですし、てこの働きをしみ込ませる過程と考えている節があるのかも。実際にそれを回転に取り入れて究極的に高めたのがクラウザーですしね。

どちらも利点はあるとした上で、記録を目指すなら(トップレベルで戦いたいのなら)回転が有利というのが個人的な言説になります。こと投擲動作においては、回転運動が生じるエネルギーが直線運動のそれを大きく上回るというのはハンマー投・円盤投やかつてのやり投(※回転が許されていた時代)を見ていても明らかなように思います。

トップレベルになると技術習得は必須。そうなると日本や海外で上を目指すなら回転ほぼ一択なのかなと。実際、日本に回転投法が普及したのもせいぜいここ10年くらいの出来事だと思いますが、歴代十傑を見ても一番古い回転の記録は2018年。他は2020年以降ということで、近年活躍している回転の選手が上位を席巻しているということになります。

確かにアツオビン選手は手足が長くグライド向きの体型ですが、それでも世界トップクラスと比較した際に明確なアドバンテージはないように思います。クラウザーみたいな2m級の選手ですら今や右も左も回転という時代ですから、将来的に転向するにしても現時点で既にデッドラインが迫ってきた感があります。

一年生の頃は奥村選手とほぼ互角だった記憶がありますし、追いつけ追い越せの精神で今後も19m台を期待したいです。

まだ遠いですが、奥村選手の活躍で日本人の20mも少しずつ現実味を帯びてきています。リレカでの19mには私も元気をもらいました。円盤投と合わせて、日本人が苦手とするサークル種目にも光明が差してきましたね。

ビッグ2を欠いた男子円盤投

さて、図々しくも私は投人なんて名乗っていますから、当然投擲競技を観戦するためにユニバー記念競技場まで足を運んだわけです。

兵庫の陸上民、特に神戸市民にとっては庭のような場所。近年では全国各地に立派なスタジアムが増えてきたため日本屈指の大型競技場とまでは言えないのかもしれませんが、それでも数万人は収容できる規模があります。

しかしこの競技場、バックストレートの座席はベンチのように平たい形状でして、長時間座っていると腰にダメージを与えてきます。私は運動不足と肥満による腰痛持ちなので、背もたれのない平らなシートは中々堪えます。

円盤投を観戦する時いつも悩むのですが、最終的には真横、もしくはサークルに向かって斜め前の位置に陣取ることが多いです。未だに正解にたどり着けていないのですが、競技として楽しむなら投擲物の軌道と落下地点の良好な視界はマストだと考えています。

そんなどーでもいい前置きはともかく、今回円盤投で残念だったのは堤雄司選手と湯上剛輝選手が不在だったこと。堤選手は欠場、湯上選手はオクラホマのラモナで記録に挑戦していたためエントリーなし(日本新出ましたね!)。

やはりこの二人がいないと寂しいものがあります。また、お馴染みの蓬田和正選手も会場にはいたものの、あくまで応援団の一員として参加していたようでエントリーもありませんでした。

となると注目は幸長慎一選手と北原博企選手。60m前後のベストを持つ二人の戦いになるかなと予想していました。

また、兵庫出身の山口翔輝夜選手、怪我から復調して毎年少しずつSBを伸ばしている安藤夢選手(みはる矯正歯科じゃなくなってる…)にも注目していました。

試合を総括すると、やはり幸長強しといったところでしょうか。55mラインを一回も割ることなく最終投擲で56m90まで伸ばしました。まだまだ堤・湯上・幸長の三強は盤石の模様。

昨年60mに迫る大躍進を遂げた北原選手は、地力の強さを感じさせる記録(55m22)を投げてきましたが三強の一角を崩すにはもう少し勝負強さが欲しいと感じました。

とはいえ若いので先が楽しみな選手であることは間違いありません。身長も高いですしね。

4位の山下航正選手は毎試合55m近く投げてくる安定感が光りますが、だからこそ一発が欲しい選手ですね。とてつもない高校記録を持っている選手なので20代後半に差し掛かってもめげずに60mの大台を目指してほしいです。
余談ですが彼の旧友である砲丸投の稻福颯選手がスタンドで応援していて微笑ましいなと思いました。

安藤選手は一投目が苦手なのか、いつも低調な滑り出しの印象があります。それでも今やベテランの域に入ってきた選手ですから、6投を通した修正力は一日の長があるのではないかと思いました。彼にも故障前のベスト超えられるよう志を高く持って競技を続けてもらいたいものです。

山口選手は格上だらけの試合でやりづらさがもしかするとあったかもしれませんが、出場選手のベストを考えると7位は仕方ないかなと。しかし今年はアメリカで世界記録保持者のマイコラス・アレクナと対戦する貴重な体験もしましたし、21歳ならまだまだこれから。筑波大には前田奎さんという日本における円盤投研究の第一人者もいますし、若さゆえの貪欲さと吸収力で逞しく成長してもらいたいです。

こうしてみると、少なくとも日本ではジャイアントキリングが起こりにくいというか、素直に実力通りの順位になることが多いなという印象を受けます。もっと混戦状態になれば相乗効果で記録も上がったりしないでしょうか。

そういう意味では中堅どころ(?)の北原選手や山下選手の強烈な追い上げに期待したいところです。三強に割って入る形になれば大投擲の応酬ももっと見られそうな気がしました。