砲丸投げ ラジンドラ・キャンベルが22m22の大投擲

ウサイン・ボルトやヨハン・ブレークらを輩出し、スプリントで名を馳せたカリブの雄・ジャマイカ。

近年は円盤投げでも存在感を増し、選手層の厚さは世界指折りだ。

しかし他の投擲種目では依然目立たない存在であった。2015年にはオデイン・リチャーズが砲丸投げで銅メダルを獲得しているものの、以降目ぼしい活躍はできていないのが現状だ。

遅咲きの27歳

そんな中、今月22日にマドリードで開催された競技会にて男子砲丸投げのラジンドラ・キャンベルが、オデイン・リチャーズが2017年に樹立した21m96を塗り替える22m22の国内新記録を樹立し投擲界を驚かせた。

(※余談であるが、左利きの世界記録だと考えられる)

https://twitter.com/beau_throws/status/1682853940814139393

キャンベルは1996年生まれの27歳。昨年は室内二試合にしか出場しておらず、自己ベストはその年にマークした20m18。屋外に至っては一昨年の19m99が最高という、世界レベルには程遠い選手でしかなかった。

数年前まで南ミズーリ州立大学に留学していたキャンベルだが、主だった成績は2019年全米学生の5位、MIAA室内優勝など、エリート層ではあるものの特筆すべき点は見当たらない。

何より、砲丸投げにおいて2メートル以上ベストを更新─それも20m台の選手が22mに一年で到達する例は極めて珍しい。

かつてはジョン・ゴディナが自己ベスト20m03から二年かけて22m00(全米学生記録)まで伸ばした事例もあるが、これは当時23歳の若手の話。キャンベルは投擲選手として脂が乗る時期とはいえ、異例の大躍進を遂げたことになる。

しかし今季の成績を見てみると、フロックではないこともまた確かと言えるほどの充実ぶりである。

二試合目に20m96の自己新をマークすると、四試合目には21m31を投げて大台を突破。さらに六試合目には21m14、七試合目のジャマイカ選手権では21m04をマークし自身初の国内タイトルを獲得。

そして今季九試合目となったマドリードでまたしても大台を突破し、22mクラブの仲間入りを果たした。

キャンベルの出身校である南ミズーリ州立大は、全米学生リーグではDivisionⅡに該当する。

アメリカにおいては、大学の規模や選手層の厚さではDivisionⅠが最も優れている場合がほとんどであり、高校時代やU20で好成績を残した国内外のエリート層は奨学生として入学するのが通例である。

ターナー・ワシントン(アリゾナ州立大)やマイコラス・アレクナ(カリフォルニア大バークレー校)はDivisionⅠで活躍する超エリートクラスの選手なのである。

今季22mの大台を突破したロジャー・スティーンもDivisionⅢの大学出身であり、本来はトップ層から離れた位置にいる選手だった。

恐るべし砲丸大国アメリカとでも言うべきか。世界トップクラスの選手のほとんどがアメリカ出身またはアメリカ留学経験のある選手ばかりであり、当然キャンベルも例外ではない。

また、同じジャマイカではオデイン・リチャーズの台頭以前に世界で活躍したドリアン・スコットもアメリカ出身・フロリダ大卒業の選手だった。

台風の目となるか

キャンベルにとって今夏のブダペスト世界陸上は自身初の世界大会となる。

これまで急に頭角を現した回転投法の選手は、世界大会本番ではメダルを獲るか全く振るわないか両極端になることが多かった。例えばアメリカは毎回フルエントリーで臨むものの、三人ないしは四人揃って決勝進出するケースは稀だった(近年は全員進むことがほとんど)。

鬼門となる予選さえ突破できれば台風の目となる可能性は十分ある。ライバルは年齢的にも記録的にも近いジョッシュ・アウォトゥンデあたりになるだろうか。

今季はペイトン・オッターダールも22m台の壁を突破しており、22m突破者の数は現時点で8人。未曽有のハイレベルだった2019年に並ぶ好記録ラッシュの年となった。

23m56の世界新を樹立したライアン・クルーザーや大ベテランのジョー・コバクスの存在を考慮すると、メダル争いは熾烈を極めるだろう。

キャンベルの22m22はトマス・ウォルシュ(ニュージーランド)に並ぶ今季世界3位タイ。

しかし決勝で自己新を出すくらいの気持ちで挑まなければ、表彰台は夢のまた夢である。アメリカ一強の勢力図に風穴を開けるダークホースとなるか。更なる飛躍を期待したい。