日本選手と海外選手のリーチ差は身長以上に大きい

日本人は海外の白人選手・黒人選手に比べ体格に劣るとは様々なスポーツで言われてきたことだが、主に言及されるのは身長や体重など表面的なものが多い。

しかし投擲競技に関して言えば、最も差が顕著なのは身長や体重ではなく手足のリーチである。

両腕を広げた状態で左右の指先までの長さをウイングスパン、またはアームスパンと呼ぶが、要はこの腕の長さが投擲物に力を加える上で非常に重要ということだ。

 

日本選手のウイングスパン

以前インスタグラムの投人アカウントにて、ウイングスパンの調査を行った。統計としてはサンプル不足が否めないがおおよその傾向を語る程度であれば十分だろう。

なお、この中には全中出場・インカレ出場や入賞経験のある選手も含まれている。


【インスタグラムアンケート:対象者24名】

対象者 身長(㎝) ウイングスパン(㎝)/身長比
A 162 170/+8
B 163 160弱/-4
C 165 175/+10
D 167 164/-3
E 167 170/+3
F 168 167/-1
G 169 170/+1
H 170 180/+10
I 171 178/+7
J 172 179/+7
K 173 174/+1
L 175 180/+5
M 175 182/+7
N 176 179/+3
O 177 193/+16
P 178.5 194/+15.5
Q 179 187/+8
R 181 190/+9
S 182 190/+8
T 182 192/+10
U 183 184/+1
V 185 185.5/+0.5
W 186 194/+8
X 194 193/-1

 

ウイングスパン-身長

対象者25名の平均は+5.375㎝。最長が+16cm,最短が-4cmという結果になった。「ウイングスパンの平均は身長前後」という通説はあながち間違いではなさそうだ。

では次に各身長帯で平均を出してみよう。なお、対象者に190㎝台が一人だけであること、180㎝を超えれば日本では高身長の部類であることから同じグループに分類した。

 

160㎝台(7名)… +2.0cm

170cm台(10名)… +7.95cm

180cm+(7名)… +5.07cm

 

特筆すべきは高身長(180㎝以上)に明確な有意差が見られなかった点だ。絶対的なリーチはあるものの、身長比で必ずしも大きなウイングスパンを持っているわけではない。当然と言えば当然だが、身長同様かなり個人差が大きい形質である。

160㎝台でウイングスパンが身長比10㎝を超えている選手もいれば、当データで最も長いウイングスパンは178.5㎝の選手と186㎝の選手が194㎝でトップタイであった。

また、170㎝台の選手は平均的にウイングスパンが長く、今回の検証で唯一負の値を示す対象がいない身長帯だった。

日本人の骨格や平均身長を考慮すると、背が高すぎるというのも考え物で、必ずしも体格的に恵まれているという話ではないのかもしれない。

海外選手の場合

では体の大きな外国人選手はどうなのか。データが少ないものの判明している範囲で記述しておく。

 

対象者 身長(㎝) ウイングスパン(㎝)/身長比
K.チェー(円盤投) 206 225/+19
R.クルーザー(砲丸投) 201 208/+71USA TODAYの記事にて。https://www.usatoday.com/story/sports/olympics/2022/07/15/track-and-field-world-championships-ryan-crouser-seeks-shot-put-gold/10064500002/
V.アレクナ(円盤投) 200 224/+24
D.スタール(円盤投) 200 220/+20
L.ブルック(円盤投) 198 約218/+20
N.ミュラー(円盤投/女子) 188 206/+18
J.ヤング(円盤投) 185 209/+24

 

クルーザーの208㎝など、一部信憑性に欠けるものはあるが大半は身長比+20㎝前後のウイングスパンを誇っている。データが入手できる選手のほとんどが円盤投選手であることから、特にリーチが重要な種目であることが改めてうかがえる。

また、特に長いウイングスパンを持っているからこそデータとして表に出るという可能性が考えられるが、当たらずも遠からずと言ったところか。

砲丸投の選手で比較するとわかりやすいが、海外の選手は腕が太くても短くは見えない。日本選手のほうが可動域が狭そうな丸太のような腕、という表現が当てはまるケースが多いのではないか。

五輪・世界陸上の決勝進出者の平均身長を見てみると、砲丸投は190㎝前後、円盤投は195㎝前後で推移している。円盤投日本記録保持者・堤雄司は身長184㎝であるからファイナリストクラスの選手と比較して身長差は11㎝ほど。ところがウイングスパンで見るとその差は大きく開く。

2016年以降金メダルは200㎝を超える選手が独占

 

例えば今回のデータに当てはめて考えてみよう。184㎝の堤には+5cmほど、189㎝のウイングスパンがあるとする(実際は不明)。すると平均的な体格でウイングスパンもあまり長くないゲルド・カンテルと比較すると17㎝もの差があるということになる。仮に堤に16㎝のウイングスパンがあったとしてもようやく200㎝に届く程度。

絶対的なリーチの長さではやはり大きく劣るのである。

白人や黒人の身体的特徴から見て、世界大会の平均的なファイナリストがウイングスパン2mを割るとは到底考えにくい。円盤投に限らず、日本で2メートルを超えるウイングスパンを持つ逸材は一部スポーツを除きごくわずかだろう2日本のバスケ選手にもウイングスパン2m20を超える選手がいるらしいが、身長が206㎝以上あるという。

 

余談になるが2000年以降の五輪・世界陸上の円盤投において190㎝未満のメダリストは一人もいない。近年ではサム・マティス,マウリシオ・オルテガやアポストロス・パレリスらが180㎝台の選手として入賞を果たしている。

 

結論:身長差は忘れよう

身長が低くてもウイングスパンが長ければてこの原理で投擲物に大きな力を加えることが可能だ。手足が長ければ筋肉をより広範囲に万遍なくつけることができ過剰な筋肥大による関節や腱への負荷も軽減される。

一方で高い位置から投げだせるというメリットは勝敗を左右するほどのものではない。たとえ身長が10㎝違ったとしても、ウイングスパンが同じなら記録差は他の要素でカバーできるほどの誤差のようなもの。差があるとすれば脚の長さによるものであろう。

投擲で目覚しい活躍を遂げた選手は必ずしも体格に恵まれていたわけではない

 

たまに「身長が低くても戦えるか」という質問を受けるが、日本人同士であれば私は「YES」と答える。海外選手とは違い、技術や筋力、総合的な運動能力でつけ入る隙があるからだ。

親からもらった大事な身体。身長の高低にこだわらず、健康に産んでくれたことへの感謝を忘れずに自分だけにしかできない投げを追究してもらいたいものだ。

 

 

P.S
よろしければコメント欄で身長・ウイングスパンを表記してもらえるとありがたい。一覧に追加させていただく。