世界陸上2019ドーハ 男子砲丸投げプレイバック&分析

史上最高レベルの大会

2019年は大会前から史上最高の戦いになることが期待されていた。というのも、大会前の時点で22mスロワーが8人もいたからだ。

これは前回大会の4人を大きく上回るばかりか、史上最も22mが記録された1986~1987年の6人を抜く史上最多である。

黄金の80年代を初めて上回った年として、投擲ファンならば誰もが22mプットの応酬を予感しただろう。

実力者はほぼ順当に決勝へ

このリザルトが予選だとは、2010年代以前の誰もが信じないだろう。

 

今大会はそのレベルの高さを反映してか、予選通過標準記録が20m90と過去最高の距離に設定されていた。

この距離は90~00年代ならば大会よってはメダルに匹敵するほどの記録である。

そして22mスロワー8人のうち、6人が一発で予選通過。

特に2019年のランキングトップ3、前回覇者のウォルシュ、リオ金のクルーザー、伸び盛りのブラジルのダーラン・ロマニらは21mラインを大きく超えて軽々と決勝を決めた。

2015年北京大会の覇者、コバクスの一投目は20m90のライン上に落下。微妙なところに落ちはしたが、結局20m92で無事予選通過。

コバクスは予選の通り方があまり上手ではないので本人としても肝を冷やした場面であったろう。

これは単なる後知恵だが、もし一投で通過できていなければ予選落ちの可能性すらあったかもしれない。なぜなら、20m90と史上最高に設定された標準記録さえ、突破者が12人、すなわち決勝の枠すべてが埋まってしまったのだから。

砲丸投げに限らず、フィールド種目、特に男子はこの予選通過標準記録というものがかなり高いレベルに設定されており、ランキング上位の選手でも一発で通過するのは難しい。

そのため、どの大会でも記録突破者12人の枠が埋まることはなく、予選上位12人が決勝に進出する、というのが慣例だった。

今大会は史上初めて通過ライン突破者が12名出たことで、決勝での名勝負はもはや確信的なものとなった。

また、予選落ちの最高記録が20m75というこの大会でなければ確実に決勝進出できた記録であるというのも、全体的な層の厚さを物語っている。

 

【予選から最高レベル】
予選落ちの最高記録は2017年ロンドン大会の20m54。レベルの高かった前回をさらに上回る超ハイレベルの大会だった。

 

明暗分かれた予選B組

20m90というラインは、22mスロワーでさえ沈めてしまった。

今季22m22を投げ初めて22mスロワーの仲間入りを果たしたルクセンブルクのボブ・バーテムス

世界大会で目立った成績もなく、予選通過できるのか不安であったがその予感は的中してしまった。

一投目、見るからに力んでエリア右外に砲丸が落ちファウル。明らかな投げ急ぎだ。

結局その流れを変えることは最後までできず、19m89という22mスロワーも形無しの記録に終わってしまった。

残念だが、今後の躍進に期待したい。

 

2017年にグライドから回転へシフトチェンジし、メキメキと頭角を現してきた。全競技を通じてルクセンブルク史上初の決勝進出が期待されたが……。

 

 

もう一人、前回大会ファイナリストのポーランド、ミハル・ハラティク

今季22m32のポーランド記録を投げて上り調子の彼だったが、待っていたのは意外な結末だった。

1投目、20m44。まずまずの記録だが、実はこの時点で既に11人が決勝進出を確定させており、プラス通過の枠はわずか一枠、レオナルド・ファッビーリ(イタリア)の20m75をまず最低でもクリアする必要があった。

ハラティクの直後に投げたフィリップ・ミハルビッチが20m76を出しファッビーリは予選落ちが確定。

2投目、もはや20m90を投げなければ決勝には行けないだろうという場面で20m52となかなか伸ばせないハラティク。

その直後、ミハルビッチが21m00を投げ12人目の決勝進出が確定。

これでプラスの通過枠は完全に消滅。通過記録を超えなければ決勝に行けないという史上初の展開に見舞われた。

そのプレッシャーは計り知れないものがあっただろう。

ハラティクの3投目はライン手前で力なく落下(20m11)。

予選A組の時点で7名も決勝進出を確定させていたことがB組の選手にとっては大きな重圧となっていた。22mスロワーですら2人消えてしまったのだから。

 

今季22m32のポーランド記録を投げているだけに、国内からのプレッシャーもあったか

 

【勢い止まらず】
史上初めて、決勝進出者が全員回転投法の選手となった。
シュトールも出場しておらず、グライドの選手は苦しい時代を迎えることとなった。