マイコラス・アレクナが71m00の学生新&最年少70mスロー!各地で好記録相次ぐ

未だかつて、これほど円盤投げの神に愛された男はいなかった。数々の功績を残してきた偉大な父の背中さえも、彼にとってはいずれ超えていく通過点だと感じさせられる。

37年間破られていない世界記録─74m08。東ドイツのユルゲン・シュルトが1986年に樹立した男子最古の世界記録だ。

今から23年前、その記録にあと20㎝まで迫った男がいた。リトアニアの大英雄ウィルギリウス・アレクナだ。五輪・世界陸上を二連覇した彼の功績は円盤投げの世界に身を置いた者であれば誰もが知るところである。

アレクナは歴代屈指の名選手
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ウィルギリウス[mfn]リトアニア語では「ヴィルジリウス」に近い発音である[/mfn]・アレクナ(英語:Virgilijus Alekna 1972年2月13日)はリトアニアの元円盤投げ選手。M35-39,M40-44クラスの世界記録保持者[…]

 

時は流れ、2022年世界陸上オレゴン男子円盤投げ決勝。リトアニアのユニフォームを身にまとい、華麗なるフォームで史上最年少メダルを獲得した選手がいた。

 

彼の名は、マイコラス・アレクナ─そう、あのウィルギリウス・アレクナの息子である。U20世界選手権を制し、鳴り物入りでカリフォルニア大バークレー校に進学したマイコラスは次々と快記録を放った。

3月下旬に66m70を投げて世界陸上標準記録を突破すると、その後も67m68,68m73,69m00と自己記録を立て続けに更新。

極めつけは、ダイアモンドリーグストックホルムで投げた69m81。あわや70mという大投擲は、将来の世界記録更新を確信させるに十分なセンセーションを巻き起こしたのである。

欧州選手権では世界陸上金のクリスチャン・チェーにも勝利し、史上最年少で欧州王者に輝いた。

 

チェーの最年少記録を更新

4月29日にバークレーにて行われたThe Big Meetで、マイコラス・アレクナが自身の学生記録を大幅に更新する71m00をマーク。20歳213日で史上最年少70mスロワーとなった。また、年齢別の世界最高は言うまでもなく、23歳以下の世界最高記録も更新した。

本人はインスタグラムにて「No wind needed(風なんて必要なかった)」と自信をのぞかせた。

 

従来の記録はクリスチャン・チェー(スロベニア)の22歳129日であり、23歳以下の最高記録でもあった。

オレゴン世界陸上でアレクナを破ったチェー

 

チェーが更新する前の70mスロー最年少記録保持者ウォルフガング・シュミット(西ドイツ)の24歳205日は約43年もの間破られなかったが、チェーの記録は2年と持たなかった。

アレクナとチェー、円盤投げ史上最高の才能を持つ二人が同時代で鎬を削ることになるとは、因果なものだ。

 

アレクナのシリーズ
一投目二投目三投目四投目五投目六投目
 63.29 67.25 71.00  X 66.21

 

今季二試合で68m台をマークしていたアレクナだが、わずか三試合目で大記録が飛び出した。昨年のアレクナフィーバーを覚えているファンならば、この記録で終わるはずがないと否が応でも期待してしまうだろう。

 

Saataraコーチ曰く、スケジュールの都合やシーズンも先が長いことから、アレクナは現在“準備期間”のような状態であり、投げのリズムや安定性を重視した技術改良に取り組んでいる最中だという。

 

アレクナは試合後のインタビューで以下のように語っている。

実はそこまで記録が出るとは思ってなかった。今取り組んでいることを実践しようとしたんだ。(Saatara)コーチの技術アドバイスのおかげで遠くに投げることができた。チームワークの賜物だね。

風は強くなかったけど暖かくてコンディションは非常に良かったと思う。

 

世界クラスのスロワーと比較して非常に細身でウエイトも弱い彼だが、ウエイトトレーニングよりも技術や瞬発トレーニングに力を注ぎたいという。今年の目標はやはり世界陸上と全米選手権だ。昨年どちらも銀メダルに終わった大会であり、雪辱を誓うシーズンとなる。

 

ALEKNA Mykolas
アレクナ
僕はどの試合でも勝ちたいんだ。だから上手くやれたらいいなって

 

 

父・ウィルギリウスが20歳の時の自己記録は60m86。初めて70mを記録したのは73m88を投げた2000年、当時28歳。マイコラスは父よりも8年早く70mを、それも同年齢の父を10メートル以上上回る記録で達成してみせた。

 

父の背中、そしてその先にある世界記録の更新はすぐそこまで迫っている。

 

 

R.ストーナも67m02

クレムソン大を卒業しアーカンソー大で競技を続ける24歳のロジェ・ストーナ(Roje Stona,ジャマイカ)も好記録を連発。3月に砲丸投げで20mの大台を突破する20m08をマークし好調ぶりをうかがわせたが、本職の円盤投げでも初戦から66m64の自己新記録を叩き出した。

さらに二週間後のLSU Invitationalでは67m02まで記録を伸ばし、ブダペスト世界陸上の参加標準記録を突破。66mがフロックでなかったことを証明してみせた。

 

2021年U20世界選手権でアレクナに次ぐ銀メダルを獲得した学友、ラルフォード・マリングス(ジャマイカ)が62m16で2位。

 

今季はアレックス・ローズ(サモア)が4月16日に70m39を投げて一躍ワールドリーダーに躍り出て世界を驚かせたが、早くもアレクナが今季最高を奪還するという目まぐるしい記録ラッシュが続いている。

現時点で既に66m超えが11人、70m超えが二人、68m台が二人という活況ぶり。SB68m30に甘んじているクリスチャン・チェーや、東京五輪の覇者ダニエル・スタール(スウェーデン)の動向からも目が離せない。

【追記】

アリゾナ州立大のターナー・ワシントンが砲丸投げで20m13,円盤投げで64m98のSBをマーク。一時期第一線から退いていたが、少しずつ調子を取り戻してきた。

 

衰え知らぬ33歳

今年6月に34歳を迎えるジョー・コバクス(アメリカ)も元気だ。

室内シーズンは21m55とまずまずの滑り出しだったが、屋外初戦で22m69の今季世界最高をマーク。さらにファウルとなってしまったが23mを超えるような大投擲を放っており、未だその力は衰えを見せない。

 

コバクス最大のライバル・世界記録保持者のライアン・クルーザー(アメリカ,30歳)は屋内で出した23m38が計測不備により取り消されるなど不本意なシーズンとなったが、Drake Relayで降りしきる雨の中22m38をマークし、技術力の高さを改めて示した。

テキサス大の後輩でありナイキの僚友A.トリップ・ピペリ(アメリカ,24歳)も悪条件下で21m49の好投。先日の21m45を上回りSBを更新。この二年記録的に足踏みしていたピペリだが、22mの可能性も少しずつ見えてきた。

 

世界最強を自負する砲丸王国・アメリカ。今年の全米選手権も熾烈な代表争いが繰り広げられることは間違いない。

 

 

アメリカだけではない。今年ついに22mの大台を突破したジャコ・ギル(ニュージーランド,28歳)やゼイン・バイアー(イタリア,27歳)を始め、中堅勢が好調だ。

この数年苦戦が続いていたボブ・バーテムス(ルクセンブルク,29歳)が21m93i,ベテランのトマス・スタネク(チェコ,31歳)が21m90i,ドーハ世界陸上では惜しくも決勝を逃したレオナルド・ファッビーリ(イタリア,26歳)が21m60iのサードベストをマーク。屋外シーズンも開幕し、この先も調子を上げてくるものと思われる。

 

21m99のベストを持つファッビーリは初の大台突破なるか

 

ドーハ世界陸上以来世界大会から遠ざかっているダレル・ヒル(アメリカ,29歳)や22m90のベストを持つ実力者トマス・ウォルシュ(ニュージーランド,31歳)、南米の雄ダーラン・ロマニにオレゴン銅のジョッシュ・アウォトゥンデ(アメリカ,27歳)も虎視眈々と王座を狙っている。

一人でも多く22m突破者が増えてくると、あのドーハの再来もあり得ない話ではないのかもしれない。