欧州投擲杯Throw Back 砲丸投・円盤投─痛感した選手層の差

投擲の本場と言えば、皆様はどこを思い浮かべるだろうか。砲丸投で圧倒的な実績を誇る陸上大国アメリカ,伝統的に女子でメダルを量産してきた中国。キューバやジャマイカなどのカリブ勢も忘れてはならない。

しかし地域単位で見ると、北米や東アジアが特別投擲に造形の深いというわけでもない。

やはり投擲の本場と言えば、各種目にメダリストを輩出してきた欧州だろう。投擲の古豪・ドイツだけでなく、円盤投のリトアニア,やり投のフィンランド,ヴォダルチク擁するポーランドやかつて栄華を極めたハンガリーやベラルーシなど、欧州国家の投擲界は層が厚い。

昨年の秋シーズンにはアジアでも投擲杯が開催されていたが、ごく一部の選手を除き選手層は全く比較にならないほどである。片やシーズン終盤の10月、片やプレシーズンの3月では一概に断言できない部分もあるかと思うが、アジア勢はU23欧州勢に対抗できるかどうかというレベルである。

砲丸投

欧州勢一般カテゴリーのA組(上位グループ)優勝者はゼイン・バイアー(Zane Weir,イタリア)で記録は21m55。ファウルで22mを超える試技もあった。21m台はアジア記録クラスであり、アジアで太刀打ちできるのはテジンダーパル・シン(インド)くらいのものだろう。
A組7位(※ファブリが棄権のため7人で実施)Szymon MAZUR(ポーランド)で18m58。
B組(下位グループ)の優勝記録は19m40(Jander HEIL,エストニア)で、組最下位の6位はDennis LUKAS(ドイツ)の17m51。

U23に目を向けてみると、A組はMuhamet RAMADANI(コソボ)が18m54で制し、組最下位はKwinten COOLS(ベルギー)の16m35。この組では18m台が二人、17m台が四人と、日本選手権決勝クラスとほぼ同等である。

しかし実際は19m台のベストを持つ選手が複数出場しており、記録が伸びなかったのはシーズンが浅いのと、前日に雨が降ってコンディションがあまり良くなかった影響が考えられる。

昨年のアジア投擲杯では優勝したHaochen Zhang(中国)が19m21で、8位のSim Jun(韓国)17m14であった。記録だけ見れば欧州一般カテゴリーのB組に相当する水準であったが、この組は19m~21mのベストを持つ選手が6人中5人もおり、同時期に直接対決を行えば間違いなくアジア勢を凌ぐ力を持っている。

さすがにU23のB組はアジア投擲杯や日本選手権の水準には達しないものの、この時期でも19m以上を投げてくる上位層はさすがといったところ。

円盤投

一般カテゴリーA組は強い雨の中開催され、多くの選手が悪条件に苦しんだ。世界陸上で決勝経験のあるアリン・アレクサンドル・フィアフィリカ(ルーマニア)が66m07の好記録をマークし優勝した。
8位がニコラス・パーシーの59m60で、最下位は55m18だった。


これだけの悪条件下でほぼ全員が60m前後投げてくるのは、さすが欧州の円盤投と言わざるを得ない。しかもダニエル・スタール,クリスチャン・チェー,マイコラス・アレクナなどの選手を欠いた状態でだ。

B組も同様に悪条件下での試合となった。優勝はÖmer ŞAHİN(トルコ)で58m72。8位は52m06のTemuri ABULASHVILI(ジョージア)だった。
思い返せば昨年の日本選手権もU20円盤投の試合が順延となる最悪のコンディションだったが、シニアの円盤投が始まるころには雨は弱まっていた。
B組はほぼ日本選手権と言っていいくらいの水準であるが、一国の国内選手権と下位グループとはいえ各国を代表する選手が集まる国際大会とを比較できるのであれば、日本の円盤投も随分レベルが上がったように思う。

一方、翌日に行われたU23では曇天ではあるものの雨は降っていなかった。サークルが乾ききっておらず、時折タオルでサーフェスを拭う選手もいたが、それでも前日よりは良いコンディションだ。

優勝はやはり経験に勝るスティーブン・リヒター(Steven RICHTER,ドイツ)で、ただ一人大台を超える61m00で圧勝した。
昨年のU20世界選手権銅のミカイロ・ブルーディン(Mykhailo BRUDIN,ウクライナ)が59m95で続いた。8位が54m72と、最低のコンディションだった一般カテゴリーB組をU23が上回る結果となった。

チェーに続け!チェコの大型ニューカマー

私が個人的に注目している、ヤン・スヴォジル(Jan SVOZIL,チェコ)は55m86の自己ベストをマークし5位入賞。クリスチャン・チェーをも凌ぐ209㎝の巨体を誇る2004年生まれの19歳で、技術的にもまだまだ伸びしろがあり、今後の活躍が期待される。

55m86の投擲も円盤がブレていて完璧とは言い難かったが、それでもあれだけ飛んでしまった。三投目以降調子を崩してしまったのが残念だが、チェーがそうだったようにリーチを活かせるようになれば飛躍的に伸びる可能性も感じられ、現時点でも2㎏に順応すれば60m近く投げられるポテンシャルはあるように思う。