クリスチャン・チェー(セイ)はスロベニアの円盤投げ選手。スロベニア記録保持者・23歳以下世界最高記録保持者(70m35)。日本メディアでは「チェフ」と呼称されている。
クリスチャン・チェー(Kristjan ČEH)
国籍 スロベニア
種目 円盤投げ
生年月日 1999年2月17日
身長/体重 206㎝(6’9)/118kg
ウイングスパン 225㎝
自己ベスト
円盤投げ:71m27(2022)
砲丸投げ:16m48/17m65i(2020)
叫び声:イヤァァーッ!イヤァァツ!
来歴
1999年2月17日、スロベニアはプトゥイ1スロベニア最古の都市の一つ。の農家に生まれた。中等学校時代砲丸投を試したところ遠くに投げることができた。それを見た教師に勧められ試合に出場したことから陸上選手としてのキャリアを歩み始めた。円盤投げは15歳の時初めて取り組んだが、程なくして自身の長い腕が競技をする上で大きなアドバンテージになることに気が付き円盤投に転向した。しかし競技を始めた当初は腕立て伏せが一回もできないほど非力であった。
ジュニア時代は優秀な選手ではあるものの、あくまでもスロベニア国内レベルの域を出なかった。2㎏で62m03を投げる力があったが、世界ジュニア2018では56m47(1.75㎏)で予選落ち。
シニアの大会に出場するようになった2019年からU23欧州選手権を弱冠20歳で制覇するなど才能の片鱗を見せ始める。この時マークした63m82で世界ランク上位につけ、世界陸上ドーハ2標準記録は破れなかったものの、招待選手としての出場が許された。に出場を果たした。
自身二度目の世界大会であったが、またしても力を発揮できず59m55の予選31位に終わった。

2020年大ブレイク
6月7日、スロベニアの競技会にて66m29のスロベニア新記録をマーク。1999年にイゴール・プリムク(Igor PRIMC)が樹立した64m79を21年ぶりに更新した。奇しくも自身が生まれた年と同い年の記録を塗り替えたことになる。
68m75 U23世界最高
勢いは留まるところを知らず、同月23日には68m75を投げさらにスロベニア記録を更新。そればかりでなく、ウォルフガング・シュミット(東独)が1976年にマークした68m60の23歳以下世界最高記録も塗り替えたのである。

さらに同月27日には67m19で前年世界陸上の銅メダリスト、ルーカス・ワイスハイデンガーを破る大金星をあげた。68mがフロックでないことを証明して見せただけでなく、一流選手を破ったことで一躍将来のメダル候補に名乗りをあげることになった。
飛躍の理由
新型コロナウイルスの蔓延による自粛期間中に投擲技術やトレーニングメニューに変更を加えたという。

昨年12月、Stanislav Stuhec教授と協力関係になり、投擲へのアプローチに変化が生じた。Stuhecはチェーの投擲フォームをビデオ分析し、科学的視点で解析することで彼の持つ能力を引き出そうとしたのである。
チェー曰く「去年から5mもベストが伸びた最大の要因の一つだと思う。」
東京五輪の延期については好意的な見方をしている。標準記録の突破はもちろんのこと、経験を多く積めることが良い方向に働くと考えていたようだ。
2021年シーズン
5月27日に地元プトゥイで行われた競技会にて、二投目に自身のU23記録を更新する69m52をマークし前年のベストを77㎝伸ばした。
さらに、直後の三投目に70mラインを超える大投擲を放ったがサークルに留まれず惜しくもファウルとなった。もし有効試技となっていれば、史上最年少70mスロワーとなっていた3最年少の70mスローは1978年にウォルフガング・シュミット(西ドイツ)がマークした71m16で、当時シュミットは24歳205日であった。。
70mスローは時間の問題かと思われたその矢先、6月26日フィンランドで行われたKuortane Gamesにて70m35をマーク。ウォルフガング・シュミットの24歳205日を抜き22歳69日で史上最年少70mスロワーとなった。
コーチとの決別
東京五輪を前にチェーはスキャンダルに巻き込まれる。それまでチェーの指導を行ってきたGorazd Rajherコーチがスロベニアのハンマー投選手でありチェーの恋人でもあるオレル・アナマリアとの交際を解消するように迫ってきたのである。コーチたちはアナマリアの練習場内への立ち入りを禁止し、チェーとトレーニングを共にさせないよう画策した。アナマリア曰く自身は関係改善に努めていたがコーチや関係者がチェーを操ろうとしていたのは明らかだった。それでも五輪前に決別するのは得策ではないと考えていたというが、コーチたちはあらゆる手段でオリンピック前のチェーを妨害してきたと主張する。
また、アナマリアの人格等を否定する発言もあったという。
自分のために何かしてくれとクリスチャンに無理強いしたことはない。大事な人がチームに裏切られトラウマになるような経験をしているのが一番つらい(アナマリア)
東京五輪後、コメントを求められたRajher氏は「彼女は大ウソつきだ。アスリートの人格を否定したことは一度もない」とアナマリアの声明を強く否認。チェーの5位という成績について問われると「それがベストだと思ってやったのだろう。私の計画では違った結果になっていただろうけどね。私の聞いた話が本当ならチェーは東京前にバケーションに行っていたそうじゃないか。それがトップアスリートのすることなのかね」と“因果応報”ともとれるような恨み節で答えた。

しばらくアナマリアが代理コーチを務めていたが、10月に北京五輪男子円盤投金メダリストのゲルド・カンテル(エストニア)から新たに指導を受けるようになった。フォームにも変更を加え特徴的な沈みこむワインドアップからカンテルのようなワインドアップで投げるようになった。
新たな門出
コーチとの決別、五輪では失意の5位に終わったチェーだが、翌2022年カンテルコーチとの二人三脚は最高の形で結果に結びつき始めた。これまで円盤投げの絶対王者、ダニエル・スタールに13戦0勝と大きく負け越していたチェーだが、3月22日のEuropean Throwing Cupで初金星を挙げた(66m11で優勝)。
5月にはアメリカのVelaasa社とパートナーシップを提携し、フラグシップモデルのVelaasa Stonesを履いて試合出場するようになる。そして同月のダイアモンドリーグバーミンガムでは三投目に71m27のスロベニア新・世界歴代10位の快投を放ちスタールに二勝目を挙げた。
また、この記録は大会新並びにダイアモンドリーグ新記録4従来の記録はフェドリック・ダクレスがマークした70m78でもある。
世界ランク2位で迎えた世界陸上オレゴンでは予選一投目に68m23を投げ全体2位で決勝進出。前回王者ダニエル・スタールや19歳で大会記録保持者の息子マイコラス・アレクナとの三つ巴が予想されたが結果はチェーの完勝だった。
三投目に71m13を投げてウィルギリウス・アレクナの大会新記録(70m17,2005年ヘルシンキ)を大きく更新するとその後も70m近くで安定。五投目に70m51を投げて再び70m台に乗せた。
銀メダルのアレクナ(69m27)に2メートル近い差をつけ、4位に終わったスタール(67m10)には4メートルもの大差をつけて念願の世界大会初優勝を達成した。大舞台でシーズンベスト71m27に迫るセカンドベストを投げたことで昨年より地力が大きく向上したことを印象付ける試合展開だった。
体格
公称では206㎝
2m級の選手と並んだ写真を見てみると、明らかに206㎝より身長が高い。同じ競技会に出場したヤコブ・ガーデンクランスは「僕は207㎝あるけど、とにかく僕よりは高い」と発言しており、実際の身長は恐らく210㎝前後であると推察される。
また、ウイングスパンは225㎝もあり、ウィルギリウス・アレクナ(222㎝)やダニエル・スタール(221㎝)のそれをも上回る。
砲丸投げ
元々砲丸投げから陸上を始めたこともあり、現在もサブ種目として時たま出場することがある。自己ベストは17m65(室内)であるが、これが18m~19m投げられるくらいに筋力がつけば円盤投げでの更なる大記録も期待できよう5例えばウィルギリウス・アレクナは19m99、ロバート・ハルティングは18m63のベストを持っている。。
家族
姉妹が二人いる(姉・妹かは不明)。スポーツの家系ではなくチェーが一家初めてのスポーツ選手であるが、父親の身長が190㎝ありチェー自身も「(高身長の)遺伝があるのかも」と語っている。
スロベニアのハンマー投げ選手オレル・アナマリアと交際しており、インスタグラムでは二人の仲睦まじい様子をうかがい知ることができる。
人物
背が高すぎるため、道行く人々が振り返ってチェーを見る。普段はそれが面白いと感じているが、辛く感じることもあるという。
世界記録について聞かれると、

それが僕ならいいんだけどね!
円盤投げ選手として、自己記録を伸ばしたい、限界まで遠くへ投げたいという気持ちが原動力になっていて、他の選手に勝つことが目的ではないという。
現在はマリボル大学で農学を学んでおり将来は養鶏農家になりたいと考えている。
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