以前YouTubeのほうに立ち幅跳び集を投稿したが、この記事ではさらに情報を補足していこうと思う。
その1では立ち幅跳びで陸上最高記録を持つArne Tvervaag氏について触れた。今回は投擲選手の記録を調査していくことにする。 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://www.throw-fanat[…]
投擲選手の立ち幅跳び集
公然とまかり通る誤った風説
ところが先述のバイロン・ジョーンズすら知らず、未だにレイ・ユーリーの3m47が世界記録だと思っている人が少なくない。
ましてやArne Tvervaag氏に至ってはほぼ英語記事しかヒットせず、私が確認したところ日本語記事はわずか数サイトのみであった。
実際、グーグルのサジェストで「立ち幅跳び 世界記録 室伏」と出てくるが皆ユーリー氏の名前ばかり。
誰に聞いたか室伏が最強だと妄信する説を非常に多く見かけるようになった。
「室伏最強説」「身体能力」「室伏があのスポーツをやっていたら」
これらのワードを混ぜておけば簡単にアクセスや再生数が稼げるという呆れた手法だ。
真偽などどうでも良い、尾ひれ背ひれがくっついた根拠も信憑性もない「室伏伝説」には本当に辟易する。
「室伏は30mならボルトよりも速い」など最たる例だ。
いくら室伏の足が速いとはいえ世界最速の男に勝つことは至難の業。
ましてやそういうデータがあるわけでもないから、「ボルトの方が速いだろうが比較できないので分からない」というのが最も真に近い言説だと言える。
Arne Tvervaagとは
さてここからが本題。陸上選手最高記録を持つTvervaag氏とは一体どんな人物なのか。
Tvervaag氏が世界記録を出したのは1968年11月11日。
それからバイロン・ジョーンズが2015年に記録を破るまで約47年間世界最高記録保持者として君臨した。
立ち幅跳びは正式競技ではないため記録を集計する機関がなかったが、ギネスブックには登録されていたようだ。
その公式記録3m71から一か月後、非公式ながら3m78を記録。しかしこの記録は一旦承認されたのだが、二年後取り消しとなってしまった。
Tvervaag氏曰く「審判の数が規定より少なかったから」だという。
また、どうして氏の記録が長く残っているのか尋ねられると「理由は明らかだ。当時は立幅の記録を伸ばそうという風潮があった。今日行う選手は通常の陸上選手で、ほぼトレーニングの一環だからだよ」と語っている。
自らの記録371cmをナンバープレートにしている
ノルウェーは立ち幅跳びが盛ん
ノルウェーは世界で唯一立ち幅跳び・立ち高跳びの大会が開催されている国であり歴代記録も高水準である。
Tvervaag氏の息子であり教え子でもあるThomas Wiborgは100mのベストが10.51の短距離選手で 歴代5位の3m531ちなみに立ち三段では10m40のノルウェー記録を保持している。を記録している。
女子でも3m超
室伏広治の妹、女子ハンマー投げ日本記録保持者である室伏由佳は2m802室伏重信氏のブログより。http://shigenobu-murofushi.blog.jp/archives/7807361.htmlほど跳べたというが、ノルウェー歴代1位のオンスタッド(走幅跳PB: 6m34)は3mを超える記録を出している。
ノルウェー立ち幅跳び選手権2012
近年では円盤投げのオーラ・イセーナ3
世界陸上2019ファイナリストが3m24で2017年ノルウェー選手権大会41910年より行われ二度の世界大戦の際二シーズンのみ中止となった。を優勝している。彼にとっても3m71は「自分では考えられない記録」と舌を巻くほどの大記録だ。
記録樹立の背景
当時教鞭を執っていたTvervaag氏は暇を持て余すことがあった。
そんな時体育館にあった長さ3.5mほどのマットを飛び越えて遊んでいたという。
僕は足を前に投げ出すのが上手くて後継姿勢を維持できたんだ。
一方で更新可能性についてTvervaag氏は「もう誰も専門でやる選手はいない。主要大会も開かれないからね」と現状競技性が失われていることを認めている。
当時のノルウェーでは冬場になると通常の陸上トレーニングができなくなるため立ち幅跳びや立ち高跳びなどが盛んに行われていた。
僕らの頃は跳んだり跳ねたりというのが冬のスポーツだった。1960年代以前は立ち幅跳びを専門的に行う選手が多かったが他の競技ではパッとしなかった。
今日の良い立幅選手は主に他の競技を専門とする選手ばかりだ。
ちなみにTvervaag氏は立ち高跳びでも1m52を跳び、走幅跳6m78、三段跳でも14m50の記録を持っている。
表舞台に出なかった理由
世界記録を持っていたTvervaag氏が知られていないのにはもう一つ理由があった。
立ち幅跳びの国内選手権に出場した経験がなかったのである。そのため彼が脚光を浴びることはなかったという。
余談になるがJohan Christian Evandtという選手は1956年から1966年まで11大会のうち10回優勝(歴代最多)を果たしているが、彼はスポーツ選手ではなく船乗りであり船上でトレーニングを行っていたそうだ。
1963年には立ち高跳びとの二冠も達成した(以下動画参照)。
Johan Christian Evandt
記録更新の一報
—3m73です。貴方の記録を2㎝上回りました
Tvervaag:面白いね。あの記録の後3m78を跳んだけど審判が少ないとかで取り消されちゃった。それでも心の中では記録保持者だと思ってるから
バイロン・ジョーンズが3m73を記録した際、電話でこう言って笑ったという。
以上、今回はノルウェーの砲丸投げ選手で立ち幅跳び陸上最高記録保持者のArne Tvervaag氏についてご紹介した。
五輪という衆人環視の下行われるという点ではレイ・ユーリーが正式な世界記録と言うべきかもしれないが、ここは先人に敬意を払い立ち幅跳びを語る時はArne Tvervaag氏の名も忘れないでいただきたいと思う。
次回投擲選手の立ち幅跳びを考える【その2:記録編】に続く。