Q.1(円盤投げの)ファーストターンで進みすぎてセカンドの位置が左に着いてしまうのを直したい【投人の目安箱回答編#1】

第一回目の質問はターンの技術についてですね。参考になれば幸いです。

これは動画を見た限りでは円盤投のターンってことでいいのかな(DMくれた神里君ですよね)?多分砲丸投でも同じことだと思うけど…。

注意事項の欄にも書きましたが、どういう意識で行っているかなどある程度こちらに伝わるように書いてもらわないと互いの認識に齟齬が生まれ、適切な回答が難しくなるので次からは気を付けてくださいね。

普段から私と交流のある方であれば今更詳細な自己紹介は必要ありませんが、そうでない方がほとんどなので。ここはひとつ、お互いの為だと思ってよろしくお願いいたします。

オーバーローテーション(ストライド)を防ぐためには

ターンの歩幅やファーストターンにおける右足の接地角は個々人により大きく異なるかと思います。ただ共通して言えるのは、投擲は再現性を極限まで高めることで最高のパフォーマンスを発揮できるようになる種目であるということです。

ファーストで大きく進みすぎてしまうがためにターンが左に寄ってしまう、だからもう少し中央寄りにフィニッシュできるようにしたい…というのがこの質問の主旨かと思います。

特に中高生は「ターンは大きく」と教えられている選手が多いでしょうから、このようにファーストで進みすぎる、飛んでしまうことで投げに弊害が生まれるというケースが多々見られます。

技術に軸を持とう

答えは簡単、「大きく回らなければいい」

そんなんわかっとるわアホ!…なんて言われそうですが、動画を見た限りでは恐らく意識づけとドリルが足りていない、または自身のターンのコンセプトがハッキリと定まっていないということがオーバーローテーション(以下ORと表記)の背景にあるのではないかと思います。

皆さん、自分の技術─ターンの上手さや、ひいては体格・筋力・身体能力を鑑みた技術的観点をどれだけ合理的に説明できますか。ただなんとなくで投げていませんか。

スイープレッグを大きくして、ハイポイントを高くして素早く回る…。この程度の認識だったりはしないでしょうか。

投擲は技術種目です。大雑把な認識で技術改善できるほど甘くはなく、何となくの感覚だけで理想のターンができる選手なんてほぼ皆無です。スタールにしろチェーにしろ、堤選手にしろ湯上選手にしろ「自分の理想(目標)とする投げ」を芯に持っているからこそトップに昇りつめたのです。

技術的な軸がぼやけたままでは、悪い癖は中々直りません。

意識と感覚をリンクさせる

さて本題です。先述の通りファーストで右足を着く位置は人によりけりですが、大事なのはサークルの中央(=2.5mサークルのうちの1.25m辺りの地点)よりも手前か遠いかということです。要するに中央線が引いてあるあたりですね。

質問者の方を始め、OR気味の選手はほとんどが中央より遠くに接地しているのではないでしょうか。

ファーストの接地位置としては、右寄り左寄りかはさておきサークルの真ん中につくのがやはり好ましいです。ファーストが大きすぎるとセカンドが回り切れなくなるからです。

チェーのように2メートルを超えるような選手でも、毎回中央線あたりに正確に接地しています。

チェーのファーストターン右足接地

ORを防ぐために、まず確認すべきは接地位置の意識づけです。

「必ずこの位置に着く!」と普段から意識してターンを行えているでしょうか。とりあえず良い感じでファーストに入れたら…とお考えのようでしたらまずその意識から修正する必要があります。

ターンを構成するにあたり、ファーストに限らず、理想とするポジションを定めてそこにターンを当てはめていくという工程が欠かせません。

そして意識と体(実際の感覚)をリンクさせるために、サークルの中央にコーンを接地してその周りをターンしたり、あるいは中央寄り外側に置いたコーンを踏まないように接地を繰り返すドリルを行うのが良いと思います。コマ送りやゆっくり目の動作で正確に中央に着く練習をするのも効果的です。

頭と体のアプローチを一心同体で行わないと、再現性のあるターンを作り上げることは難しいです。とにかく特定の位置に接地することを体に覚え込ませましょう。

したがって、今一度自分のターンを見直して最適なポジションはどこなのかを洗い出し、体に叩き込んでいくことが必要かと思います。

まずはサークル中心線を基準にターンしよう!

インスタの他の動画も確認したところ、試技の度に異なるかとは思いますが、神里君が左に流れてしまう時はこのような接地位置になることが多いと思います。

サークル中央を基本にターンを行う意識さえ持てれば、セカンドで左足がセクターライン(※扇形のエリアを構成する白線のことです)より外に出ることもなくなるでしょう。

もっと言うと、意識せずに行えるほど体に染みついた動きになるのが理想ですね。

ファーストは悠長に行わない

動画を見た上でもう一つ考えられるのが、切り返しの遅さです。

ハイポイントを高く作るためなのかもしれませんが、ファーストで腰を切り返すのがかなり遅いのではないかと考えられます。

この切り返しが遅いために、ファーストでつけた勢いが投擲方向向かって左前方に働き続けるので、結果的に左側かつサークル中央線を超えたところに接地してしまうのではないかと思われます。

円盤自体を大きく動かせてしまったとしても、ターンの推進力が失われてしまっているので軸が傾き、右足への重心移動にもたつきます。それを相殺しようとセカンドが間延びしてしまうために左足も開いてしまい、左足にも乗り切れていないのがわかります。

その結果、自分は思いっきり振り切った感覚があっても、上体だけが先へ先へと進んでしまうので右腰を回しているつもりでも円盤は右に抜けます。

この切り返しで重要なのが、感覚を足に集中するのではなくお尻を投擲方向へ向ける意識で行うことです。こうすることで腰がグッと回りますし、そうなると足も自然についてくるからです。

ブロックやリバースももちろん大事ですが、まずはORを直すだけでもかなり安定した投げができるようになると思います。すぐに距離に繋がるかまでは確約できませんが、ターンの軸ができるということは長い目で見れば必ず上達の足掛かりになるはずです。

指導者や選手個人の考え方もあるので無理にとは言いませんが、もしサークルを全部使いきりたいだとかファーストをとにかく大きく回りたいがためのORなのであれば、ターンをスケールダウンさせた方がずっと回りやすくなるかと思います。

190㎝を超える長身だったり、筋力が十分なシニア選手ならまだしも、中高生の場合はサークルをフルに使うメリットよりもターンが崩れるデメリットの方が大きいからです。

念のため書いておきますが、ファーストターンを急げということではありません。あくまで切り返しを素早く行ってセカンドに繋げよう、ということです。

そういえば海外の著名なコーチが”When it comes to discus, it’s all about separation”と言っていたのをふと思い出しました。

まさしくその通りなんです。円盤投で大事なのはいかに上体と下半身の分離角が大きくできるかの勝負です。ターンのタイプによっては必ずしも最重要視するわけではないですが、やはり無視できない要素です。

腰の切り返しも同じこと。切り返しが遅いということは、すなわち下半身と上体の分離、要は捻りが作れていない状態で一緒に回ってしまっているということになります。

これは円盤投ではなく砲丸投ですが、クラウザーとかファーストゆっくりじゃん!と思われる方もいるかもしれません。しかし彼の場合、スイープレッグの振りは遅く見えてもセカンドへのつなぎは非常に素早く行っています。そのため、セカンドのリズムアップも上手く行えているというわけなのです。

腰の切り返しに関しては、私はConnor Bell選手が参考になると思います。まだ若いのにターン自体がシームレスかつ思い切りの良い投げをしています。ターンスピードが速いのにバランスが崩れることもなく、円盤につけた加速をそのまま振り切りに持っていくのが非常に上手い。

今年さらにビッグスローを見せてくれるのではないかと私が期待している一人です。

特にファーストターンは多くの選手にとってお手本となるような素晴らしい動きをしていますね。

彼の投げを見れば、見かけだけの速さよりも大事なのはタイミングとリズムだということがよくわかります。

さて、上記以外にもORを修正するのに有用な手段はいくつかあります。

ターンを速くしたり、推進力を得るために左腕を大きく使おうとする選手が多いですが、ターンそのものはあくまでも下半身主体で行う必要があります。

左腕でターンを動かすことに慣れてしまうと、下半身で動きを作ることが難しくなり上体と下半身との調和も崩れやすくなります。

捻りを作るために上体の動きを制御したり、体幹に角度をつけて円盤との釣り合いを取る、といった使い方で脚さばきに集中するのが良いかと思います。

上体が突っ込んでしまうために、左へ流れてしまうということも考えられます。それを防ぐために、あえてファーストにおける軸足の角度を浅くするという手段もあります。

ハイポイントの高さや捻り・円盤を大きく残す特徴がある選手は軸足の角度が浅い傾向にあります(G.カンテル,M.アレクナなど)。

マイコラス・アレクナ

逆にターンスピードが速かったり、円盤が良く走る選手は投擲方向へ大きく捻りこむ選手が多いです(C.ベル,M.デニーなど)。

軸足の捻り込みが大きいと必然的に腰を回しやすくなる反面、推進力も強まるので上手く制御できないとORの危険性も増します。現在のターンに合わせて、この点も見直してみるのはいかがでしょうか。

関係ないですがデニー選手の2013年時(当時17歳)の投げを見て衝撃を受けました。あんな上手い高校生いたら将来有望過ぎますね…。

ファーストの接地で右足つま先が8時~9時方向に向いてしまうことも要因の一つではないかと思います。これを6時方向まで内側に捻りこむようにするだけでもサークル中央に近くなりますし、セカンドも今よりずっと回りやすくなるはずです。

また、前述の切り返しとも関連してくる動きになります。

以前動画でも説明しましたが、8時~9時接地は世界トップクラスの選手に多いポジションで、これはセカンドからリリースまで右足を回し続けることで可能になる高度な技術です。形だけ真似してもデメリットが大きいだけなので中高生にはお勧めできません。

日本のシニアでもこの位置に接地する人はかなり少なく、シニアでも難しい技術であることがわかります。

また、接地の際に右膝が伸びてしまう人はターンが跳んでしまっていないか確認してみてください。跳んでしまう人はやはりORのきらいがあります。

ターンが跳ばないようにするためには、スイープレッグを腿上げのように高く振りすぎないようにすることが大事です。地面から離れたところで振り下ろすとその分重心移動が遅れやすくなったり、接地位置の調整が難しくなります。

さいごに

身長が高い選手だと、気を付けていてもORになりがちです。そういう選手ほど普段の意識付けは小柄な人よりも入念に行う必要があります。

試合で普段と同じ投げをするのは難しく、ここぞという時に記録を出せる選手こそ本当の強者ではないかと思います。

私もそうだったのですが、試合で思うように動けないということは、緊張やプレッシャーなどですぐに崩れる再現性のない技術だということです。

普段の練習から正しい動きを理解し、地道なドリルや確認作業で較正繰り返す。これなくして理想の動きは完成しません。

当記事が役に立つかどうかはわかりませんが、もし何か改善が見られた場合はご一報いただけると嬉しいです。

今後はこんな感じで回答していきます。私とDMでやり取りしたことのあるならご存じの方もいるでしょうが、これがデフォルトです。長文読めない方にはお勧めできません。その代わりちゃんと読んでくれた方が納得できるような内容にしているつもりです。

際限がないので今回はここまで。本当はもっと短くまとめるつもりでした…。内容や応募数次第ですが、今後は回答対象を絞るかもしれません。

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