一体この男はどれほどの可能性を秘めているというのか。5月15日にヘイウォードフィールドで開催されたPac-12 Track & Fieldにてマイコラス・アレクナ(リトアニア)が自身の持つ学生記録67m68を更新する68m73の大投擲を放った。
This isn’t fair.
68.73m (225-6) 😲
He’s only 19.
Mykolas Alekna of @CalTFXC has changed the game of collegiate discus throwing forever.pic.twitter.com/oLsvrPNowL
— USTFCCCA (@USTFCCCA) May 16, 2022
“伸び盛り”のアレクナジュニア
前回の学生新から一月足らずの更新、それも1メートル以上の更新幅は投擲界を震撼させた。
ジュリアン・ラック(オーストラリア,UCLA)が9年間保持していた大会記録65m41を三度上回っただけでなく、そのラックがマークした学生最高記録1公式記録だがNCAA基準外の最高記録68m16をも更新した。ラックの68m16は21歳の時にマークされたものだが、誕生日の5日前であったため実質的には22歳での記録と考えても問題ない。
一方、アレクナはまだ19歳の大学一年生。卒業まであと最低でも三年はあるが、どこまで学生記録を伸ばしてしまうのか。
アレクナの父、ウィルギリウスは長いキャリアの中で輝かしい成績を残し続けた偉大な選手ではあるが、その彼とてキャリア初期から伝説的な選手だったわけではない。67mを超えたのは24歳、68mを超えたのは26歳時であったことから円盤投の選手としてもやや遅咲きだったことがうかがえる。
世界陸連の年次ベストを参照すると、ウィルギリウスの19歳時(1999年)のベストは57m16である。無論、19歳の記録として考えると57mでも立派な記録ではあるのだが息子が同時期の父よりも11m先に行ってしまうとは誰が予想しただろうか。
68m73は19歳の記録としても世界最高記録である。また、ローレンス・オコイエ(イギリス)が保持している20歳最高記録68m24をも現時点で上回ってしまった。
最優秀選手にも選出
アレクナは優れた成績を称えられPac-12の最優秀選手・最優秀一年生に選ばれた。しかし、今季の活躍を見れば当たり前とコーチたちは鼻息を荒くする。
カリフォルニア大バークレー校の陸上部監督Robyne Johnson氏は受賞の知らせを聞いて「当然だ。他に誰がいるというのか」と答え、投擲コーチのMohomad Saatara氏は「これは非常に名誉なこと。今年マイコラスは真面目に好成績を残そうと頑張ってきた。その努力が報われる時が来たということだ」と語った。
バークレー校の男子選手として最優秀選手に選ばれたのはアレクナが初であり、女子選手を含めると三例目となる。
相乗効果に期待
今季のNCAAはアレクナを筆頭に史上類を見ないほどの好記録ラッシュが続いている。Pac-12にはアレクナの同年代ライバルであるラルフォード・マリングスも出場し、アレクナに次ぐ2位入賞を果たした。
しかし記録は63m47。一年生であること、マリングスの自己記録が65m39であることを考慮すれば全く悪い記録ではないがアレクナとは5メートル以上もの差がついてしまった。完全に力関係が決まったと言っても過言ではないほどの大差であり、ジュニア時代からマリングスはアレクナに勝つことができていない。
記録・安定性の観点では21歳のクラウディオ・ロメロ(ヴァージニア大)が一番の対抗馬だろう。
今季67m02の自己新に加え、66m21のセカンドベストをマークしている。だがそれでもアレクナの成長速度に追いつくことは容易ではなく、初の直接対決となるであろう全米学生選手権では熾烈な戦いが繰り広げられると思われる。
二人のデッドヒートにマリングスも加わりあっと驚くような記録が誕生するかもしれない。
70m台の可能性
昨年クリスチャン・チェーがウォルフガング・シュミットの持つ70mスロー最年少記録を更新したばかりだが、シーズン序盤から自己新を連発するアレクナの台頭によりチェーの記録が早くも脅かされつつある。70mは歴史上27人しか達成していない領域であり、恵まれたウインドコンディションなしには到達困難な記録水準でもある。
アレクナは19歳にしてあと2メートル足らずまで迫ったが、この勢いをどこまで維持できるかが一つのポイントになってくるだろう。世界陸上までに69m台に乗せてくるようであれば、今季のうちに70mを超えることも不可能ではなくなってくる。
アレクナは現時点で世界ランク2位につけており、世陸&五輪王者のダニエル・スタールただ一人が上回る距離を投げている。今季の安定感、底上げされた地力を見るにアレクナは世陸での決勝進出が現実的であるばかりかメダル候補とすら言えるほどの力を持っている。絶対王者のスタールとて油断すれば足をすくわれかねないほどだ。
19歳での70m、世界陸上メダリスト─円盤レジェンドの正統後継者が新たな伝説をつくる日が迫っている。
62.06-65.55-65.42-66.93-68.73-パス
マイコラス・アレクナ(19)の快進撃が止まらない。今春大学生になったばかりの一年生が試合出場のたびに大記録を連発している。 NCAA新記録 母国リトアニアを離れ、カリフォルニア大バークレー校の学生として競技に取り組むアレクナは62m[…]