マイコラス・アレクナが74m35の世界新記録!シュルトの記録を38年ぶりに破る快挙

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ついにこの時がやって来た。オクラホマ州ラモナの投擲シリーズ国際招待競技会にて、マイコラス・アレクナ(リトアニア)が74m35の世界新記録を樹立した。1当初の光波計測では74m41と発表されたが、世界記録公認作業のため金属製メジャーにて再計測された結果6㎝修正された

従来の記録は、ユルゲン・シュルト(東ドイツ)が1986年にマークした74m08。

2000年にウィルギリウス・アレクナ(リトアニア)が73m88をマークしてあと20㎝まで迫ったものの、誰も成しえなかった陸上最古の世界記録としても知られていた不撓の記録であった。

1986年という時代に樹立されたシュルトの世界記録は、旧東側諸国による薬物使用がささやかれてきた疑惑の記録。

やり投やハンマー投に比べ更新可能性は高いと思われていたものの、風の影響を強く受けるという競技特性上、記録を狙うには時の運が絡んでくるのもまた事実だった。

ダニエル・スタールやクリスチャン・チェーなど、世界トップの座を争うスロワーはダイヤモンドリーグを中心とする規模の大きい大会に出場する機会が多いことから、世界歴代十傑以内の好記録を狙うことは容易ではなかった。

スタールもチェーも、自己ベストの71m86をマークした競技場は風通しの良い小型スタジアムであった。

一方、彼らに対抗しうる実力者としてこの数年で急激に力をつけてきたマイコラス・アレクナは、カリフォルニア大バークレー校に通う学生選手。

プロ選手の彼らとは異なり、スポンサーのしがらみもなく試合選びの自由度は高い。

現在マイコラスを指導するバークレー校のサータラ氏は、風を追い求めるのではなく技術向上が大事であるとしながらも、Throw Townからの招待に「世界の強豪選手と戦える」と興味を抱き出場する運びとなったという。

コンディションを度外視していたわけではないが、彼らにとってはパリ五輪前に世界レベルの試合が出来ることが重要だったのである。

思い返せばマイコラスの父・ウィルギリウスも記録に強いこだわりのある選手ではなかった。

2000年に73m88をマークした直後、故障に見舞われたウィルギリウス。

翌年以降もコンスタントに70mをマークしたものの、セカンドベストは71m56であり、71m以上の投擲はキャリアを通じて5回。

彼とは対照的に、最大のライバルの一人であったゲルド・カンテル(エストニア)はチュラビスタなど強風吹き荒れる試合に好んで出場しており、セカンドベストも72m02とウィルギリウスを上回っている。

しかし直接対決ではウィルギリウスが57勝37敗と大きく勝ち越しており、未だ破られていない円盤投の連勝記録も樹立するなど記録更新が滞ってからも長きに渡り活躍を続けた。

マイコラスは今回の世界記録を含め、既に71m以上のパフォーマンスを三回記録している。同時期の父どころか、歴代全ての選手よりも円盤を遠くに投げてしまったが、一般に円盤投のピークは20代後半と言われていることから、たとえ世界新を出したところで彼にとってはほんの通過点に過ぎないのかもしれない。

世界新もさることながら、六回の試技全てで70mオーバーという離れ業を披露したことは特筆に値する。

たとえ向かい風による助力が大きくとも、力のない選手が超えられる壁ではないことも確かだからだ。

二位につけたロジェ・ストーナは先日NFL挑戦を示唆する動画でも話題になったジャマイカの有望株。

身長198㎝,体重115㎏,ウイングスパン216㎝を持つ筋骨隆々の大男であり、細身のマイコラスを圧倒するような堂々たる体躯を誇る。

ストーナも昨年マークした68m64を上回る69m05の自己新をマークしたものの、マイコラスには全く歯が立たなかった。

1.75㎏ではマイコラスを上回るU20世界記録を持ち、古豪ドイツの威信を背負うミカ・ソスナも68m96の大幅自己新を叩き出し奮闘するも、三位。

他にも今季好調のコナー・ベル(ニュージーランド)が68m10の国内新、マイコラスと同じく円盤投金メダリストを父に持つ8位のターナー・ワシントンも66m32を投げて三年ぶりのベスト更新となり世界大会以上の記録ラッシュに沸いたが、この日のマイコラスの前には全て霞んでしまうような印象さえ受けてしまう。

惜しむらくは、マイコラスに対抗しうる実力者─スタールとチェーが不在であったことだ。

今回世界記録を出したのはマイコラスだったが、これがチェーやスタールでも全く不思議ではない。

もちろん世界新の一報は二人の耳にも届いているだろうから、このまま手をこまねいているような選手達ではないと私は考えている。

記録の上では一歩リードされたが、三人が目指すものはやはりオリンピックの頂点。まだシーズンが始まって日が浅い4月中旬、二人の動向からも目が離せない。

このままマイコラスがオリンピックを制覇し、円盤投界を席巻していくのか。

それとも、王者が意地を見せ玉座を守り抜くのか。

38年止まった男子円盤投の時代が、今ようやく新たなステージへと動きだそうとしている。

【ユルゲン・シュルトの談話】

「今朝妻を起こすときに“これからは元世界記録保持者が家にいるぞ”と言ったよ。マイコラスのことはすぐに祝福した。とても力強いパフォーマンスだったね。シリーズ全てを70mスローで揃えたんじゃ認めざるを得ないよ。僕だって試合でそんな経験はなかったからね。」