陸上日本選手権2023 二日目 観戦記

「災害級の大雨」という物々しく大仰な豪雨が予想されていた6月2日の日本選手権二日目。私も前日まで参加できるか先行きが不透明でしたが、ある方の善意により観戦することができました。

前日に鉄道会社の計画運休という話題を耳にしたため、会場に電車で向かうことになっていた私は帰りの電車に乗れるか微妙なところでした。そんな時、以前からお世話になっている円盤投げおじさんが「車で送りますよ!」と仰ってくださったので無事参加することができました。最終的には運休もなく電車で帰宅しましたが、ご厚意に改めてお礼申し上げます。

いつも世話になってばかりで情けないなあ…。最近おじさんのほうがよほど精力的に活動していて自分の存在意義が薄れつつある。できることから一つずつ片づけていかないとな。

雨に翻弄されたU20男子円盤

JRはともかく、阪急などの私鉄は通常通り運行していたので「災害級」とは程遠い感じになりましたが、それでもU20男子円盤投げが行われていた午前11時台は特に酷い状態でした。視界は最悪、歩くたびに水は跳ねるわ服はびしょ濡れになるわでそれはもうけったいなコンディションでした。

でも自分が履いていたVelaasa Raptorのおかげで足はほとんど濡れなかったぜ(ダイマ)!

自分がスタジアムに着いたときはまだ開場前で、数十人が待機列に並んでいました。決して多人数ではなかったのですが、こんな状態でも見に来てくれる人がいるのは嬉しいことですね(誰目線やねん)。

競技場に入った頃にはもう練習投擲が開始されていましたが、予想通り選手たちは大苦戦。右に抜けてネットにかけるファウルが多発していました。地方の小規模大会でもこんなに引っかけないだろう、というくらいには。

裏を返せば、国内トップクラスのエリート選手でも苦戦するほど酷いコンディションだったということ。自分だったら絶対競技したくないような、気の毒な状態でしたね。

転倒を恐れてかターンが小さく回転不足になり、投げようという気持ちだけが先行してネットにぶつけてしまう。そのような雰囲気がありました。

その中でも小宮路大隼選手(九州共立大)はさすがインハイチャンプというような投擲(44m80)を一投目に見せてくれました。以前投人チャンネルにも動画を寄稿してくれた武井夢叶選手(京都産業大)は柔らかさを感じさせるゆったりとした投げから二投目時点でトップとなる46m29をマーク。

難しいコンディションながら、さすがは同世代のトップ選手たち。各選手少しずつ帳尻を合わせてきたなという印象でした。

ところが、二投目が終了した11時40分頃、突如競技が中断。選手たちがいったんフィールドを引き上げ、コーチたちが招集されるという異例の事態に。

30分以上待っても再開のアナウンスが入らない中、電光掲示板に映し出されたのが…。

あっ明日だとーー!???

せっかく大雨の中来たってのにそりゃないよ陸連さん…。だったら初めから延期してりゃ良かったじゃんか。これ選手ファーストって言える対応なのかなぁ??選手にとっても客にとってもあまり良い決断とは思えませんね。

↓↓堤雄司選手も思うところがあったようです↓↓

6月1日から開催中のブダペスト世界選手権代表選考を兼ねた第107回日本選手権(大阪・ヤンマースタジアム長居)。2日目の男…

堤さんよくぞ言ってくれたという感じ。雨の中の試合は疲労や怪我のリスクもあるというのに、この結果が予想できなかったなんてアンタら何年陸上運営してんのという話。しかもサブに追いやられるわライブ配信には映らないわで投擲に対する考えが透けて見えるね。これが100とかだったら暴動モンでしょ。本当に陸連は表面上だけでも平等に扱う努力はしたほうがいいよ。公式の対応で差別や冷遇を助長してしまっている側面は確実にある。

てか大会前の展望で60mスロワーが歴代で3人しかいないとか思ってたり今回は色々と酷いな陸連。役員に投擲経験者いないのかな。名簿見た感じでは知ってる投擲選手はいないな…。なんか100mHでも順位誤表示とかいうミスやらかしたらしいしまさか人手足りてない?

愚痴もほどほどに、仕切り直しの三日目はライブ配信に映らなかったので(怒)リザルトを基に書きます。

二日目と同じく、武井選手が優勝。しかし内容としては6投目の51m07で逆転優勝を果たしたようですね。5投目まで50m12でトップに立っていた原田優飛選手(日本体育大)と1㎝差から最終投擲で大きく覆したのは見事。前日2位だった小宮路選手は49m94で三位となり表彰台を死守しました。

個人的には上野原高の亀井翔選手が入賞まであと一歩の9位(でも高校生トップ)だったのが惜しいと感じました。インスタでも投げを拝見していますが、雨でも大学生相手に堂々と戦っていたのが印象的でした。手足が長く技術的にも良いものを持っているので、今年のインハイもかなり期待できるんじゃないでしょうか。彼の自己記録からすると、ポイント一つ修正するだけでも50mの大台には乗るでしょう。

あともう一人、あえて名前は伏せますが怪我で思うような投げができなかった選手もいます。もどかしくフラストレーションのたまる状態かもしれませんが、焦らず長い目で競技に向き合ってほしいですね。

この年代だと競技歴は長くてもせいぜい6,7年程度。実質的に高校からという選手もいて、悪条件下での試合は学ぶことも多かったのではないかと思います。これからキャリアを重ねていくなかで、いついかなる状態でも実力を発揮することが求められるようになります。実戦経験や確固たる技術、強い精神力を身に着けた選手が上位を占めるようになるでしょうね。

王者が王者たる所以

シニアの男子円盤投げは競技開始が15時に延期。しかし午前に比べ雨の勢いはかなり弱まっており、決して良いコンディションとは言えないものの何とか試合ができる状態には持ち直していました。

しかしサークル種目に雨は大敵。それは百戦錬磨のシニア選手とて同じでした。普段なら50mを超えるような選手たちが40m台を連発。練習投擲の時点で50mラインがベスト8になると私は踏んでいましたが、実際に8位の米沢茂友樹選手(オリコ)が49m60だったので彼らにとっても非常に難しいコンディションだったことがうかがえます。

https://youtu.be/_64oK6dSWoE
男子円盤投決勝の様子(撮影:投人)

そんな中、堤雄司選手(ALSOK群馬)が王者の貫禄を見せつけました。一投目にいきなり57m98のビッグスローでトップに立ち、正直この時点で「今回も堤さんかな」と思ってしまいましたね。通常のコンディションでもこの記録を超えることは容易ではありませんし、時間経過とともに体も冷えてきます。

堤選手本人が仰っていたように、一投目に賭けるという判断が功を奏した感じがしますね。年齢や故障もそうですし、コンディション的にも後半で記録を伸ばすのは難しかったでしょうから。

湯上剛輝選手(トヨタ自動車)も56m78を投げて食い下がりましたが、三投目以降は伸ばせず二位。三位は54m77を投げた幸長慎一選手(四国大AC)で、終わってみれば堤・湯上・幸長のBIG3が今年も表彰台を独占しました。THE・いつメン。

2000年代は50m台中盤が優勝記録という時代もありましたが、堤選手が60mを投げて以降日本には62mスロワーが三人生まれましたし、全体のレベルも飛躍的に向上しました。やはりこの三人がいる以上、表彰台に乗りたければ55mは必要になってくるように思いますし、今回もその通りの結果になりました。

自己記録で見れば58m台を持つ米沢選手や、55m台の山下航生選手(九州共立大院)など実力者がいますが、上記の三人はどの試合でも55mを超えてくる力があります。このあたりの記録帯がボリュームゾーンになってくると、ジャイアントキリングも起こりうる円盤投戦国時代に突入するのかもしれません。

満身創痍の堤選手があれだけ実力発揮してくるのですから、若い世代の選手がもっと奮起して「オレがトップから引きずり下ろしてやる!」くらいの野心を燃やしてほしいですね。そうなればトップの堤選手含め、相乗効果で日本の円盤投げも発展していくでしょう。

さて、個人的に気になった選手にも触れておきます。まずは飛川龍雅選手。練習投擲で二投とも右ネットにかけるファウルをしていましたが、いざ競技開始すると別人でしたね。実力者が40m台で苦しむなか、一投目にバシッと50mラインを超えてきたのは流石。周囲の記録を見て、精神的余裕が生まれるくらいにはこの日の50mは大きかったのではないでしょうか。

結局一投目の50m43がベスト記録となりましたが、数年前と比べるともう入賞常連の風格が板についてきたように感じます。しかし彼の雄叫びというか気迫には毎回圧倒されます。

日本選手権クラスでは一際小柄な彼ですが、体が大きくなくても戦えるということを証明し続けてほしいですね。

安藤夢選手(みはる矯正AC)とは試合前にDMで少しだけ話しましたが、調子は決して良くないとのことで、円盤もあまり勢いがないように見えました。しかし怪我から復帰のシーズン、この大舞台に戻ってきたことを喜びたいと思います。SBは50m超えてますし、来年は必ず上位入賞するだけの状態に戻してくるはず。

後述する砲丸投げの森下選手も怪我からの完全復活を果たしました。安藤選手もきっと強くなって帰ってくることでしょう。

出場選手最年長の蓬田和正選手(KAGOTANI)も堤選手同様、ベテランの持ち味を感じさせる試合内容でした。

一投目に50m08を投げてベスト8を確保すると、その後も安定した投擲を続けました。最終投擲で50m82を投げて飛川選手,藤原孝史朗選手(九州共立大)を逆転して7位から5位まで順位を上げたのはまさに大ベテランのいぶし銀(って言ったら失礼かもしれないが)スローでした。

6投目に記録を伸ばしたのも蓬田選手だけであり、堤選手同様若手に刺激を与える結果となったのではないかと思います。

今季学生個人を54m91の大投擲で制した北原博企選手(新潟医療福祉大)は力を出しきれず悔しい結果となりましたが、まだ三年生。来年は忙しくなるかもしれませんが、今後のビッグスローに期待です。

昨年上位入賞を果たした稻福颯選手(日成)は全く振るわず17位に終わってしまいました。これを本人に言ったら怒られるかもしれませんが、昨年の日本選手権や普段の投げを見る限りでは円盤のほうが伸び伸びと競技しているように感じました。肩に力が入っていないというか。

恐らく彼にとって本命が砲丸だからなのかもしれませんが、肩肘張らず楽しむことも忘れないでいてほしい。簡単なようでいて、強い選手が忘れがちなことだったりするんですよね。

思うような投げができずに苦しい時期が続いているでしょうが、めげずに自分らしい投げを追究してもらいたいものです。